貧乏エンジニア漫遊記

大手造船会社エンジニアが世界を股に掛けた、面白奮闘記です!

11.インド編(2)

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貧乏エンジニア漫遊記
インド編(2) 
 

インド人の多くはヒンヅー教徒であり、独特の身分(カースト)制度に縛られている。カーストは4階級からなっており、上から順に、バラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、スードラと呼ばれている。 教科書には、カーストは日本の士農工商に近いなどと書いてある。従って身分の低いカーストほどこの制度を嫌っていると考えがちだ。ところがカーストは士農工商とは全く違う。日本の武士ならば、使用人がいなければ、自分で床くらいは掃くだろう。しかしインドではいかに貧しくてもバラモンが床を掃く事は許されない。床掃きは最下級のカーストにさせねばならない。当然なんらかの対価が必要になる。バラモンでも貧しい者は、失費がかさむこの制度を心底恨んでいた。

私のいた現場事務所のオフィスボーイのパテル少年はヴァイシャに属する。彼は机の上は拭くが、床は絶対に掃かない。
「床を掃かないと馘首だ」と脅してもパテル少年は動じない。
「机拭きと床掃きの両方をやる者はインドにはいない」と言い張る。床掃きはスードラの仕事で、それを他のカーストの者は奪えないというわけだ。バラモンもさらに細分化されている。同じバラモンでも、動物性食品について、乳製品しか許されない上層と、鶏卵までは許される下層があると云う。またカースト外という階層もある。いわゆるアンタッチャブルだ。これが結構多い。中には戸籍も定住地ももたず集団で始終移動している者もいる。ヒンヅー教以外の宗教に属する者は全てここに含まれる。アメリカでアンタッチャブルといえば良い意味に使われることもある。賄賂に染まらない清廉な官僚などを指す。インドでは文字通り「不可触民」だ。念のため云うと、ヒンヅー教徒の立場からみれば、日本人も英国人も全部不可触民なのだ。

インドは匂いの国である。寺院は線香の煙でむせかえるほどだ。下町では花の香りかさもなくば獣糞の臭いがする。香水も発達している。男でも耳たぶの窪みに綿を詰め香水を滲ませている。香水の種類はカーストによって異なる。薔薇の香水はバラモンがつける。それを持って帰って、日本でつけてみたが、匂いがきつくて周囲の顰蹙をかった。

インドといえばカレーだ。毎日作業者は工事現場に、チャパテーと3段重ねのアルミの弁当箱を持ってくる。チャパテーとは小麦粉と雑穀粉を捏ねて丸く展ばした種無しパンだ。弁当箱を覗くと、1段目は豆のカレー煮、2段目はマトンのカレー煮、3段目はナスのカレー煮といった具合だ。とにかくカレーづくめなのだ。客先のエンジニア宅に招待されたことがある。奥さんが腕によりをかけて料理を作ると云う。カレー責めの覚悟はして行ったが、最初の一口で危うく失神するところだった。ガーン、その辛さは、背中をハンマーで殴られたほど強烈だ。それを無理して笑顔で呑み下すつらさ。数口で降参した。

また、これは友人から聞いた話。工事が完了し日本に引き揚げる時、日本人サイトマネージャーがコックに云った。
「何か記念品をやろう。なにがいい?」 するとコックは食料棚から或る物を持ち出してきて云った。
「旦那、これ欲しい」
「なに! これはハウスバーモントカレーじゃないか」
「こんな旨いもの食った事ない。これ欲しい」
「インド人が日本人からカレーをもらってどうする!」
「旦那、これ全然辛くない。これカレーと違う。だけど旨い」と押し問答になった。このコックは、ハウスバーモントカレーをカレーではないと思って3年間料理していたのである。また同じコックによると、世界で一番辛いものは、なんと日本のワサビだと云う。チューブ入りのワサビを小匙いっぱい舐めて死にかけたと告白した。辛さの定義は難しい。

さて皆さん、一般家庭でインド人はどうやって食事をするか存知か。ナイフ、フォーク、箸の類は使わない。実は、右手の5本指だけを使うのだ。一本の手の指だけでチャパテーをむしるのは難しい。左手は不浄のものとして、決して食物に触れない。この習慣はインドのみならず、アフリカ、中近東、東南アジアに広がっている。これを原始的と笑わないでいただきたい。日本人は目、鼻、唇、舌、喉で料理を楽しむが、インド人はこれに指先を加えているわけで、食を楽しむ点において、むしろ文化的ともいえる。

 

公開日:
最終更新日:2017/05/01


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