貧乏エンジニア漫遊記

大手造船会社エンジニアが世界を股に掛けた、面白奮闘記です!

13.バングラデシュ編

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貧乏エンジニア漫遊記 
バングラデシュ編

1982年2月、バングラデシュへ行った。この国は東、北、西の三方をインドに囲まれ、南は、ビルマとの間の僅かな国境線を除いて、ほとんどがベンガル湾に面している。東はインパールの山岳地帯だ。ここで、かつて日本軍の3個師団が打ち続く豪雨のため壊滅した。北からはヒマラヤ山脈のチベット側の雨を集めたブラマプトラ河が流れ込み、西からは同山脈のインド側の雨を集めたガンジス河が流れ込む。国土の大部分が多湿の三角州なのだ。

食物は質量ともに少ない。野菜でまともなものは胡瓜くらい。羊と鶏は痩せこけ、米も不味い。加えて酒はご法度と来る。牛肉はほとんどない。代わりの水牛肉はとても食えない。牛肉を鯛とすれば水牛肉は鮫のようなものだ。何年かに一度は大洪水で百万人以上の被災者がでる。人々は極端に貧しい。恐らくこの国は世界の最貧国五指の内に入るだろう。 雨季には陰々とした黒雲に巨大稲妻が走る。日本の稲妻はギザギザの線状だ。ひどくてもせいぜい網目状だ。バングラデシュの稲妻は、幅広く帯面状にズバッと横に走るのだ。雨も凄い。日本の雨はせいぜいバケツがひっくり返った程度に降るだけだ。バングラデシュの雨はプールの底が抜けたように降る。このような環境で生きているだけに、この国の人間はなかなかしぶとい。送電系統の建設工事で、次のような話がある。

或る日、変電所の建設予定地に縄張りをした。翌日、そこへ行ってみると一晩の内に、鶏小屋のようなものが建っている。いぶかしんで調べていると、一人のオヤジがやって来て立退き料をくれという。その額がなんとハイライト10箱程度なのだ。普通なら、サイトマネージャーは決して筋の通らない金は払わない。しかし、あまりに安いので、ついお布施のつもりで払ってやった。これが失敗で、その後、小額だが次々と難題を持ち込まれた。例えば、草原だった所に、何時の間にか延々と一列にバナナの木が植わっている。調べてみると送電線の予定ルートにあたる。工事事務所に情報源をもっているオヤジ達が植えたのである。敵ながら天晴れだ。さすがにこれには温厚なサイトマネージャーも頭を抱え、土地の有力者に仲介を頼みにいった。そこでどのような折り合いがついたのか、その後バナナを植えられることはなかった。

この国の子供は人なつっこい。よく宿舎にも遊びにくる。或る日、可愛がっている少女が目を輝かせてやって来た。晩飯用にアツアツの料理を鍋ごと持って来てくれたのだ。自分で作ったという。いつもキャンデーを貰っているのでお返しのつもりらしい。ところが、この料理が日本人の口にはとても合わないのだ。しかし、少女のいじらしさに打たれて、全員が泣き笑いしながら、それを呑み込んだと云う。  日本で、少女が現地工事のオジサンに、鍋ごと料理を持って行く事があるだろうか。バングラデシュの少女は貧しくとも与える事を知っている。こちらの方が日本の少女より純粋で幸福なのではないか。聖書の使徒行伝20章35節の「与ふるは、受くるよりも幸福なり」という言葉を実感したことである。

 

公開日:
最終更新日:2016/02/22


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