貧乏エンジニア漫遊記

大手造船会社エンジニアが世界を股に掛けた、面白奮闘記です!

17.マレーシア編(4)

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マレーシア編(四)

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マレーシアの床屋はほとんどが華人(中国系)である。マレー系のものは少ない。回教徒は髪形に無頓着だし、髭を剃らない者も多い。日本人が行くのはもっぱら華人の店である。華人の店にも麗的女子理髪庁とユニセックス店の2種類がある。前者は別嬪の理髪師が数人とマダムがいる。後者は日本の理髪店に似ているが、客は男女とも出入り可。男客はどこかカマっぽい者が多い。長期出張の日本人男性が行くのは、ほとんど前者である。

麗的女子理髪庁に入ると、まずマダムが出迎える。店に足を踏み入れると、小姐(シャオツェ)がワッと寄って来る。これら小姐は、理髪器具は自分持ちで、固定客を持っている。給料は歩合制。当然愛想はよい。先ず適当な子を指名して椅子に腰掛ける。そこで飲み物の注文が来る。ここが日本と違う。日本の理髪店ではアルコール類はご法度だが、華人の理髪店では飲まない奴は野暮なのだ。格好よくいこうと思えば、ブランデーの水割りをオーダーせねばならない。日本では、ブランデーは薄いグラスに入れ、掌で暖めて飲むが、ここはマレーシアだ。水割りでいく。
さて散髪に取り掛かる。アッというまにカットが終わる。髭を剃るかどうか小姐が聞く。髭剃りは通常料金に含まれていない。若い小姐は下手糞で剃刀も切れないことが多い。多少の傷は覚悟せねばならない。指名する時、小姐を顔で選ぶか腕で選ぶかが問題だ。やっと剃り終わると、最後は耳掻きで仕上げる。この耳掻きが素晴らしい。一人の小姐が掻き棒を大小7~8本持っている。ホームセンターで時計調整用ドライバーセットを売っているが、あれを連想していただきたい。先端のスコップの形状が皆違う。大きい物は幅3mm、厚さ0.5mmくらい。小さいものは幅1mm、厚さはほとんどゼロ。よほど注意しないと皮膚を傷つけてしまう。これらの掻き棒を駆使して耳穴を完全に仕上げるのだ。

或る時、客が少なかったせいか、この耳掻きを、同時に二人の小姐でやってもよいかとマダムが聞いた。当然二人分のチップがいる。これを承知した。最初のうちは陶然となる。二人の小姐も精神を集中してやっている。その内、手荒くなってきた。一人がやたらに耳たぶを引っ張る。その理由を考えていて閃いた。二人とも右利きに違いない!つまり私の左耳についた小姐は左手で私の耳たぶを右に引っ張っているわけだ。別々の小姐が同時に左右の耳を掻くから、片方の小姐が乱暴だと思ってしまう。普通は一人が片方づつ時間をずらせて掻くので気がつかないだけだ。

その内、二人が奥の方を掻きだした。これまた大問題だった。片方だけの耳を掻くのならば。掻き棒の先端が鼓膜に近づくと、客は無意識に頭を反対側に動かす。二人が両側から攻めると逃げ場がない。「ヤメテクレ」と声を出そうとすると顎が動いて危険だ。戦々恐々、冷汗三斗。生きた心地がしなかった。
散髪がすむと映画だ。ストレス発散には香港映画、それもカンフー物が最適だ。当時、日本ではカンフー映画など誰も知らなかった。マレーシアでは既に華人向けに大流行だった。ジャッキー・チェンは「成龍」という名前で出ていた。カンフー映画には漢字と英語のダブル標記の字幕がでる。華人と云っても、広東人、福建人、潮州人、客家等から成っており、話し言葉は通じない。漢字で書けば通じるのである。その漢字も共産主義下の略字体でなく、台湾系、つまり日本人にもわかる漢字なのである。我々は英語の字幕でストーリーを追う。香港英語というのもなかなか傑作だ。

たとえば「助けてくれ!」というのを、英語では "Help me" というが、香港英語では ”Rescue my life" になる。どうも “救命呀”の直訳らしい。この程度はよいのだが "Long live the king!" と言うべき所を "Ten thousand years" と云いおる。これは直ぐわかった。「万歳」の直訳なのである。また少林寺の坊さんが、しょっちゅう片手拝みで「おみとふ」と云う。これは漢字の字幕で「阿弥陀仏」と出る。日本語の「南無阿弥陀仏」に当たるらしい。

映画館から出て夕食をすませると、夜店に行く。買いたい物は余りない。偽物の時計などを見て歩く。台湾製のローレックスは5千円、香港製は3千円程度が相場である(当時は$1/¥240)。店のオヤジが呼び止める。

主人 「ダンナ。このローレックス、20ドルにしとく。土産にいいよ」
小生 「ローレックスはいらない。その横のカルチェはいくら?」
主人 「これも20ドル。中身は日本製よ」
小生 「5ドルなら買う」
主人 「冗談だめ! 15ドルにしておく」
小生 「ローレックスとあわせて15ドルなら買う」
主人 「助けて。あわせて25ドル。OK?]
小生 「再見(サヨナラ)」
主人 「待って、待って。あわせて20ドル、OKよ。この人殺し!」

日本には、この手の土産品は持って帰らない。自分の身に付けると自分の品位が落ちたような気がする。他人にあげても、なんとなくその人を侮辱したような気分に陥る。

 

公開日:
最終更新日:2016/03/22


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