貧乏エンジニア漫遊記

大手造船会社エンジニアが世界を股に掛けた、面白奮闘記です!

18.シンガポール編(1)

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シンガポール編(1) 花と食べ物
シンガポールには数え切れないほど立ち寄ったが、長く滞在したのは1995年11月からの1年間で、港湾クレーン工事に従事した。シンガポールには、世界的な或いは歴史的な観光資源がない。オーチャード・ロードはブランド品のショッピング天国などと言われていたが、それらも今では価格破壊の始まった日本に比べて特に安いとは言えない。名所のマーライオンも、デンマークの人魚姫、トロイの木馬と並んで‘世界3大期待はずれ’と言うべき代物だ。日本の鎮守の狛犬にも及ばない。最近、オリジナルの横に相似形の大きい像をたてたが、つまらん物を大きくしただけだ。シンガポールの見所は「街中に溢れる植物」だと思う。観光コースからは外れた普通の自動車道の堂々たる並木、歩道橋に3色に絡むブーゲンビリア、家庭や事務所の庭園の観葉植物は、徒歩ならば勿論、バスから眺めていても飽きない。またトムソン通りに連なる花屋などは、蘭、ハイビスカス、アデニウム等で溢れており、花屋をハシゴするだけでも半日はつぶれる。

花といえば、オーチャード・ロードを西に突き当たった地点にある植物園が素晴らしい。この植物園は、英国植民地時代、日本軍占領期間、独立後を通じて大切にされてきた。日本軍政下では「昭南植物園」と呼ばれ、戦時中にあっても理性を保って管理された。注1  ここのブーゲンビリアは花(実際は色のついた葉)の色の数が豊富だ。最近できた南洋蘭の一角も楽しい。アガヴェやアロエのコーナーも良い。サボテンは高温多湿の風土に合っておらず惨めだ。シンガポール滞在で、鬱屈したときは、この植物園に一日中居た。

花の次は鳥だ。オートラム・ロードの近くの一角に半屋外の華人相手のレストランがあり、その近所に小鳥屋が2~3軒ある。そのレストランには大きな藤棚状の棚がある。或る日曜日の早朝、所在無く歩いていると、鳥篭に小鳥をいれた男達が、三三五五集まってきた。男達は鳥篭を棚につるす。鳥たちが囀りだした。時間が経つと男達の数が増える。遂に棚は鳥篭で一杯になり、小鳥の大合唱になった。鳥はメジロだ。日本のメジロよりは一回り小さい。啼き声も小さい。男達の一人に、日本のメジロの姿、体型、鳴き声の話をした。その男は、もしそんなメジロがシンガポールにいたら途方もない値がつくだろうという。子供の頃日本で、椿の花を餌に鳥モチでメジロを捕っていたことを話すと、心底うらやましがられた。昼下がりの猛暑の来る前に、男達は鳥をかばって帰っていった。週に一度は啼き合わせをするそうだ。さもないとシンガポールのメジロは啼かなくなるという。

シンガポールの名物といえばハイティーだ。特にグッドウッドパークホテルとラッフルズホテルのものが有名だ。英国植民地時代には上流夫人達が、日本軍のホテル接収時代には、高級将校達が愛用したという。昔は質素なものだったと思われるが、最近では様変わりだ。日本人ツアーの女性がほとんどの席を占めることがある。紅茶はさすがにうまい。アテはクッキーやケーキばかりでなく点心や果物が出る。何のことはない紅茶によるバイキング式飲茶なのだ。大阪式にギンギンに着飾ったオバチャンやネーチャンが晩飯もかねて狂い食いをする。ハイティーでは茶菓子はほどほどにし、お茶そのものを楽しむべきだ。そんな常識は彼女等には通じない。他の国の客の視線など眼中にないのだ。彼女等を目当てに、他のホテルも負けじとハイティーをやっている。値段は20~30S$だったと思う。晩飯を兼ねる者達には、手ごろな値段だ。

シンガポールには独特の料理というものはない。勿論うまい料理屋は沢山あるのだが、名物といったものはない。敢えて言えばチキン料理か。シンガポールでは一戸建ては贅沢で、一般的には中層のアパートが多い。いたる所にアパート群がある。アパート群があれば、その近くには必ずホッカーセンタ(Hawkers Centre)と呼ばれる食堂ブロックがある。屋台の寄せ集めであったり。ハモニカ長屋が向かい合った形であったり、コンドミニアムと称するアパートの一階であったりする。この手のどの食堂ブロックにもあるのが、各種ミー店とチキン・ライス店だ。華人は外食をもって良しとするので、この手の店が流行る。ミーとは麺のことだ。ミー店は日本のラーメン屋にやや似ている。日本のラーメン屋では、主人や店員が客の店への出入り時にやたらに大声をかけるが、華人の店では主人が愛想よく普通に話し掛けてくる。私にとっては華人式の方が気が休まる。

さてチキンライスだが、日本でいうチキンライスとは全く違う。日本のは「グリンピース入りケチャップ炒飯」と相場が決まっている。華人式のライスは、チキンスープで炊いた飯だ。薄茶色で多少のテリがある。チキンは別皿にでてくる。チキンはロースト物と水煮物、それに包んだ紙ごと唐揚げした物の3種が基本だ。ローストチキンもジューシーだが、水煮物の方がうまい。食べる時には2~3種のタレをつける。紙に包んだ唐揚げは、日本のファーストフッドのフライドチキンと大差はない上に結構高い。チキンの水煮物というのは、油の乗った鶏の丸太を薄味のチキンスープに入れ、沸騰点すれすれで10分程煮て、冷水につける。これを2~3度繰り返した物だ。

日本にしょっちゅう行くグルメ華人に、日本料理をどう思うか聞いた事がある。彼によると、最もうまい日本料理は「うな重」だそうだ。うなぎもうまいが、あの汁のかかったテリのある飯は最高だという。それはそうだろう、有名店の「うな重」はべらぼうに高い。また彼から酢豚について忠告があった。
彼は言う、「日本人は酢豚を中国料理の代表的な一品だと思っている。日本人のいう酢豚は‘古老肉’と呼んでいるもので、腐りかかった肉を使った下の下の料理だ。人に奨めるものではない」 たしかに日本の酢豚は酢の匂いがきつくて鼻につくことがある。またアンモニア臭がすることがある。これらは腐敗(寸前?)の肉のせいかも知れない。

注1: 思い出の昭南博物館   中公新書。E.J.H.コーナー著

公開日:
最終更新日:2016/02/22


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