貧乏エンジニア漫遊記

大手造船会社エンジニアが世界を股に掛けた、面白奮闘記です!

26.インドネシア編(3)

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貧乏エンジニア漫遊記

インドネシア編(3)

インドネシア国籍をもっている人間は、インドネシア・オリジナルの人間(現地人)と中国系人(華僑)から成っている。この稿では、両者の相克について触れたい。

海外工事を30年も手がけていると各種の犯罪に出会う。セマランでは工事開始時、ホテル暮らしをしていて暴動に出合った。日曜日の夜の事、我々日本人が麻雀をしていて、一人が「ポン」をコールした。丁度その時、遠くでポンポンと軽い乾いた音がした。

「どっかで爆竹を鳴らしてるぜ。ポンポン云ってる」
「ありゃ青竹を燃やしているんだろ。とにかく俺もポンだよ」
♪♪ポンと鳴きゃロンという ♪♪」 ここで全員の合唱が始まった。山寺の和尚さんの2番だ。

♪♪ 山寺のたぬきさん
太鼓打ちたし 太鼓なし
そこでお腹を チョイトと出して
ポンとうちゃ ポンとなる
ポンがポンとなる
ヨーイ ヨイ    ♪♪

麻雀が終わってロビーに出て驚いた。随分華僑が集まっている。結婚披露宴でもやるのだろう。それで爆竹を鳴らしているに違いない。その時は直ぐに寝てしまった。翌日ロビーは更に混んでいる。

「何事か?」 ボーイに聞くと、彼は顔を引きつらせて
「暴動が起きた、華僑は皆震え上がっている」 と言う。

市中を見渡せば黒煙が数条上がり、まだポンポンやっている。この音は実は銃声だったのだ。やがて我々の運転手が駆けつけてきた。運転手によると、華僑に対する不満で、現地人が華僑の自動車を焼き払っていると言う。警察官も兵隊も全て現地人なので最初は傍観していたらしい。商店が略奪されに及んで、やっと彼らも動き出し、発砲して暴動を制止しているとの事。ホテルは山の手で現場の発電所は海岸だ。建設資材が心配なので、どうしても現場に行きたい。昼過ぎにはスコールが必ず来る。スコールの時は暴動も下火になるだろう。運転手は現地人だし、日本人は憎まれていないだろうということで、断固スコールを突っ切って現場に行くことにした。

広い通りには幾台もの自動車がひっくり返されて火を噴いている。街角には土のうが積まれ、兵隊が機関銃を構えている。我々の車が軍隊の車両に似たジープだったせいか、途中障害もなく現場に着いた。意外にも発電所は至って平静だった。現地人は発電所は自分達の財産で華僑のものではないと思っていたらしい。翌日から、ジープに次のような文言を書いて走った。

「安全第一。我々はインドネシアのために発電所で働いている

効果はてき面で、我々には何の問題も起きなかった。この時知ったのだが中部ジャワの目抜き通りの商店も郊内外の諸工場も、全てと言って良いほど華僑系ばかりだった。

インドネシアは週給制である。しかも現地人は宵越の金は持たない。給料は華僑から金曜日に渡される。つまり暴動も一週間以上続けるとアゴが干上がるのだ。週末で暴動は収まった。後から知ったことだが、ジョクジャカルタの学生がジャワ島を横断してセマランに現れ、貧困者を扇動したらしい。公表死者は一名、被略奪店舗は一区画、焼き討ちされた自動車はかなりの数という事だった。街では、死者はもっとあったはずだと噂していた。

本件が起きると日本の関係商社からは直ぐに安否を尋ねてきた。日本大使館からはなんの問合せもアドバイスも無かった。日本では日本経済新聞一社が本件を報じただけだったという。

セマランでは別のトラブルもあった。建設用重機を積んだバージ(台船)の漂流である。工事開始直後、大型トラッククレーンはじめ、重機類の到着を待っていた。これらは中東に行っていたものを、バージに載せジャカルタ経由でセマランに引っ張って来つつあった。そこへ台風がきた。心配していたが、はたして到着予定日になってもバージは着かない。輸送業者に問い合わせても行方不明だという。輸送業者によると、曳航船の船長が危険を感じて自らロープを切ったという。その船長を呼べと言ったらフニャフニャ云って要領を得ない。しばらくしてまた連絡があり、船長は逃げ出して姿を晦ましたと云う。怒り心頭に発しているところへ、バージが漂着していると言う情報が入った。現場から車で1時間ほどのところだと言う。行ってみると確かに遠浅の海岸に座礁している。

早速離礁作業を手配したが、段取りがつくまでの盗難防止が問題だった。守衛を雇うことはできる。しかしその守衛が泥的に早代わりしないとは限らない。警察によると、きっと早代わりするだろうと言う。あるいは物が盗まれつつあっても怖いので見逃すだろうと言う。しかも警察は予算がないとうそぶく。結局、土地の、その方面の有力者(日本なら○○組と呼ぶ)に守衛を頼んだ。これがうまくいった。大切なものは盗まれなかった。工事は予定通り進捗した。

日本やインドネシアのみならず、世界中の港湾にはヤクザがいる。これらのヤクザは問題も起こすが、必要悪とでもいうべき存在である。港湾人夫は、コンテナ輸送が発達して減ったとは言え、今でもかなりいる。人夫集めと、その人夫の秩序を保つには「お上」では間尺に合わない。どうしても睨みを利かす別の組織が必要だ。日本なら、清水の次郎長、幡随院長兵衛の類がこれにあたる。アメリカならUnionと呼ぶ。米語の「Union」を「組合」と訳すのは誤訳だ。敢えて訳すなら「合法的職能ヤクザ」とでも訳すべきだ。

また、海上の漂流物は陸上の拾得物とは全く異なる。拾得物はあくまで一定期間内なら落とし主の物だが、漂流物は拾い主の物と見なされる場合が多い。漂流物は、落とし主と拾い主の国籍、発見時期、金額、発見場所などによって全く異なる。我々の場合は幸運だった。

公開日:
最終更新日:2016/02/22


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